第100回 籾山洋介(2005) 「人間」をターゲットとする概念メタファー<要旨>

本発表は、≪人間(の営み)を人間以外の存在(の営み)を通して捉える≫という概念メタファーの存在を、日本語の言語表現の分析を通して明らかにすることを目指すものである(「概念メタファー」とは、概略「ある物事を、別の物事を通して捉える・理解する」という認知作用のことである)。この種の概念メタファーが存在することは、下記のような一連の日本語表現が存在することからも予測される。日本語の例に続いて括弧の中に示したそれぞれの「〜を通して人間を捉える」は、言語表現の背後にあると想定される(個別的な)概念メタファーである。また、示した言語表現の例はごく一部であり、同様の例が数多くある。

「才能が花開く/長年の努力が実を結んだ」(植物を通して人間を捉える)

「医者の卵/学生が大学から巣立っていく」(鳥を通して人間を捉える)

「あいつはお天気屋だ/心が晴れる」(天気を通して人間を捉える)

「舞台芸術に新風を吹き込む/世間の風当たりが強い」(風を通して人間を捉える)

「やっと冬を脱することができた/人生の春を迎える」(季節を通して人間を捉える)

「言語学の輝ける星/野球界の新星」(星を通して人間を捉える)

「人生、山あり谷あり/感情の起伏がはげしい」(自然の地形を通して人間を捉える)

「彼は上司のロボットだ/膝の故障に苦しんでいる選手」(機械を通して人間を捉える)

「人生の船出/計画が暗礁に乗り上げる」(船を通して人間を捉える)

「平成の怪物・松坂大輔/あの教師は鬼だ」(想像上の存在を通して人間を捉える)

 また、≪人間(の営み)を人間以外の存在(の営み)を通して捉える≫という概念メタファーが存在するからこそ、下記のような新奇な修辞性の高いメタファー表現も理解可能になると考えられる。

 那那姫を自分の邸内に移し植えたときはまだ苗木にすぎなかったものが、いまは茎がのび、蕾をふくらませ、その蕾が露をふくんであすにも花をひらこうとしている。(司馬遼太郎『国盗り物語』『CD-ROM版 新潮文庫の100冊』)

本発表で取り上げるのは、≪人間(の営み)を人間以外の存在(の営み)を通して捉える≫という概念メタファーの一部の(個別的な)概念メタファーであるが、具体的な考察を通して、概念メタファーをめぐる一般的な問題についてもできるかぎり考えていきたい。



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