第101回 山本幸一(2006) 「主要部内在型関係節」の分析−述語関与メトニミーとして−<要旨>

関係節は、主要部を関係節から分離する「主要部外在型関係節」と、主要部を関係節の内部に表現する「主要部内在型関係節」の2つに分類される。(1)が前者の例で、(2)が後者の例である。

     (1) [ テーブルの上にあった ] りんごを取って食べた

     (2) [ りんごがテーブルの上にあったの ] を取って食べた

 「主要部内在型関係節」においては、形式上は、主節動詞は従属節全体を項として取っているが、意味上は、従属節内の一部を項として解釈している。この「二重性」の解明が、従来から分析の中心的課題となっている。生成文法を中心に、(3)のように関係節の外に空の主要部を設ける等、何らかの形で「主要部内在型関係節」を「主要部外在型関係節」に還元する分析が一般的である。

     (3) [ りんご i  がテーブルの上にあったの] Pro i  ]

この分析には問題点がある。1つには、両関係節が単純に書き換えられないことである。

     (4)(a)  宝くじに当たった金持ちが、大金を寄付した。

       (b) *金持ちが宝くじに当たったのが、大金を寄付した。

       [ (a)(b)を「宝くじが当たった結果、金持ちになった」と解釈する場合]

 2つ目には、主要部内在型関係節には「関係節」の前置や、「の名詞」の後置が容認されないことから分かるように、名詞相当構成物ではないことである。

     (5)(a)  おじいさんが買ってくれた [ 壁にかかっていた時計 ] を修理した

       (b) *おじいさんが買ってくれた [ 壁に時計がかかっていたの ] を修理した

     (6)(a)  [ テーブルの上にある財布 ] の持ち主

       (b) *[ 財布がテーブルの上にあるの ] の持ち主

 このように両関係節は異なった構文とみなされるため、本発表では、「主要部外在型関係節」と切り離して、「主要部内在型関係節」自体に働く認知メカニズムを探ることにより、前述の「二重性」の解明を試みる。結論としては、メトニミーを下位分類し、その1つを「述語関与メトニミー」と呼び、「主要部内在型関係節」は「述語関与メトニミー」であると主張するのが本発表の趣旨である。このように分析することによって、認知言語学的な研究である野村(2001)や小原(2002)では必ずしも十分な説明ができていない次の4点の問題点の解決が可能であることを示したい。

1、形式上は、主節動詞は従属節全体を項として取っているが、意味上は、従属節内の一部を項として解釈している。この「二重性」をどのように説明するのか。

2、従属節の状態・事態は、主節動詞と関わりがあり、主要部内在型関係節の成立上の制約となっているが、この制約はどのように説明されるのか。

3、同じく従属節を項として取る動詞補文との形式の同一性をどのように説明するのか。

4、「主要部が言語で表現されない主要部内在型関係節」をどのように説明するのか。

 本発表の分析をメトニミーの下位分類から始めることにする。メトニミーは従来「隣接性による転義」とされている。ところが、従来一律にメトニミーと分析されている表現をよく見ると一枚岩ではなく、認知メカニズムの異なる二つのタイプから成っていることがわかる。(7)(8)はそれぞれ、代名詞の照応において違いがみられるように、本発表では異なったタイプであると主張する。

  (7) 長髪がやって来る。

     *それ(長髪)は実に長い。 

          彼(青年)は実に背が高い

    (8) 風車が回っている。

    それ(風車)は、オランダ製だ。      *それら(羽根)は、4枚ある。

 (7)の「長髪」が「青年」を指示しているのに対し、(8)では「風車」と「回る」が結びついて始めて「羽根」の意味が立ち現れている。前者は「言語表現単独で本来の指示対象Aではない別の対象Bを指示」し、後者は「言語表現が他の言語表現と関わる時に、本来の意味Aではない別の意味Bが立ち現れている」。ただし、両者に共通するのは「ABが隣接性で結ばれている」ことである。前者を「指示メトニミー」、後者を「述語関与メトニミー」と呼ぶことにする。次のような例についても、本発表では「対象の拡張」という概念を導入し「述語関与メトニミー」と分析する。

   (9) ブッシュ大統領はイラクを爆撃した。  [「米空軍」という意味が立ち現れている]

 述語関与メトニミーでは「意味の二重構造」が生起し、次のようにまとめることができる。

  [言語表現としての伝達内容は、対象「全体」に関する稼働、状況等の叙述である。

      しかし、述語と直接関係するのは、その対象の「部分」である。]

 次に「主要部内在型関係節」についてみてみよう。この関係節を従属節とする主節動詞は、その項として、形式上は従属節全体を、意味上は従属節内の一部を取っている。この「二重性」は、既にみた述語関与メトニミーの「意味の二重構造」に他ならないというのが本発表の主張である。このように考える根拠は、前述の4点の問題点が次のA-Dのように解決できることである。

A 主要部内在型関係節が、「プロファイル/アクティブゾーンの不一致」に基づく「述語関与メトニミー」であれば、「意味の二重構造」を持つ。

     (10)  [ テーブルの上にあった ] りんごを探した

     (11) *[ りんごがテーブルの上にあった ] のを探した

     (12)  [ りんごがテーブルの上からなくなっている ] のを探した

(11)(12)の容認についての違いは、主節動詞「探した」と、従属節の表す状況との「関わりの有無」に基づく。「探す」が関わることができるのは「なくなっている」状況であり、「あった」状況ではない。つまり、主節動詞は、項と解釈される「りんご」だけでなく、従属節全体とも意味的関わりをもっていることがわかる。ここに「二重性」の認知的根拠を示すことができる。このことから、主要部内在型関係節を述語関与メトニミーとして、次のように説明することができる。

  [言語表現としての伝達内容は、主節動詞が関わる従属節「全体」の表す状況・事態である。

  しかし、主節動詞が直接関係するのは、その従属節が表す状況・事態の「部分」である。]

B 主要部内在型関係節が述語関与メトニミーであるため「意味の二重構造」として、従属節と主節 

 動詞との関わりが存在するが、「関わりの有無」が主要部内在型関係節成立の制約となる。

     (13)(a) 俳優が舞台で昨晩演じていたのを、天井から落ちて来たライトが直撃した。

             (b)*俳優が舞台で昨晩演じていたのを、今朝、駅で見かけた。

 (a)と違って、(b)が容認できないのは、(b)では「演じていた」と「今朝、見かけた」とに「同時性」が欠けるために、「関わり」が無いからである。

C 主節動詞が直接関わる部分としては、従属節の状態・事態全体であったり、その一部でもあり得るが、直接関わる部分は、図(Figure)と捉えられる。この図の捉え方の違いが主要部内在型関係節の主要部が一義的に決まらなかったり、主要部内在型関係節と動詞補文との違いを生じさせている。つまり、両者の違いは、どこに図を置くかの違いであり、相対的なものである。従って、(14)にみるように、使用される文脈によって、図の置き方が異なれば、従属節と主節動詞が同一であっても、動詞補文、あるいは主要部内在型関係節のいずれの解釈も可能である。

     (14)(a)  TVドラマ作成現場で、[ やくざが泥棒を追いかけているの ] を撮影していた。

        (b)  やくざを演じている俳優の大ファンである京子が、ズーム・アップで [ やくざが泥棒を追いかけているの ]を撮影していた。

D 「主要部を欠く主要部内在型関係節」は、「名詞の述語関与メトニミー」と「名詞節の述語関与メトニミー」が重なったものとして捉えることによって、自然な説明ができる。

     (15)  [ 顔を剃った ]のがまた伸びてきた。

(15)は「顔を剃った」という述語関与メトニミーのターゲットである「ひげ」に図が置かれている。そして、主節動詞「伸びる」にも、「ひげ」がターゲットとして継承されている。

 (16)は「対象の拡張」による「支配者→被支配者」という型の「述語関与メトニミー」である。ターゲットである「米国軍」は、従属節述語から主節述語に継承されている。

   (16) ブッシュ大統領がイラクを爆撃したのを、某国軍が後方支援した。

【参考文献】

Langacker, R.W. (1990) Concept, Image, and Symbol. Mouton de Gruyter.

Langacker, R.W. (1995) Raising and TransparencyLanguage 71: 1-62.

Nunberg, Geoffrey. (1995) "Transfers of Meaning" Journal of Semantics 12: 109-132.

小原京子(2002)「構文理論から見た主要部内在型関係節の意味と機能」大堀壽夫(編)『認知言語学「カテゴリー化』

黒田成幸(1998)「主要部内在関係節」平野日出征・中村捷(編)『言語の内在と外在』東北大学文学部. 1-79.

野村益寛(2001)「参照点構文としての主要部内在型関係詞構文」

山梨正明他(編)『認知言語学論考 No.1229-255.

野村益寛「『主要部』を欠く主要部内在型関係節」『日本女子大学文学部紀要』47: 39-49.

籾山洋介・深田智 (2003) 「第3章 意味の拡張」「第4章 多義性」松本曜(編)『認知意味論』シリーズ認知言語学入門 73-186, 大修館書店

佐藤信夫. (1978)『レトリック感覚』講談社.

瀬戸賢一. (1997)『認識のレトリック』海鳴社.

辻幸夫. (2002)『認知言語学キーワード事典』研究社.



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