第101回 野呂健一(2006) 日本語の同語反復表現について−構文文法からのアプローチ−<要旨>

本発表では、以下の例のように同一文中で同じ語を繰り返して用いる表現(以下、同語反復表現と呼ぶ)を考察対象とし、構文文法(Fillmore et al 1988, Goldberg 1995など)からのアプローチにより考察する。

(1)   病気らしい病気をしたことがない。

(2)   彼こそ政治家の中の政治家だ。

(3)   花という花は散ってしまった。

(4)   どこまで行っても山また山。

これらの同語反復表現は、いずれも各構成要素の意味の総和から全体の意味を導き出すことができないという点で、いわゆる慣用句と共通の特徴を持つ。しかし「腹を立てる」「油を売る」などの慣用句では語の組み合わせが固定しているのに対し、同語反復表現は名詞の部分を入れ替えても同種の表現が成り立つ生産性の高いものである。

構文文法では、形式と意味と機能の慣習的な統合体を構文(construction)と呼び言語単位の一つとして認め、構成要素の意味または既存の構文から予測できない構文特有の意味があると主張する。また、二つの構文の統語形式が異なる場合、それらは意味的にも、あるいは語用論的にも、異なるものでなくてはならないという非同義性の原則を前提としている。

本発表では、同語反復表現のうち「XらしいX」「Xの中のX」「XというX」「XまたX」の4つを取り上げ、類似した意味を持つ表現及び類似した形式を持つ表現との比較を行いながら、それぞれの構文としての意味を以下のように記述する。

XらしいX@:カテゴリーXに属するものの中で、典型例(または理想例、ステレオタイプ)としてふさわしいと、話者が認めるもの

XらしいXA:カテゴリーXに属するものの中で、話者がXに求める最低限の基準を満たすもの

Xの中のX:他の成員と異質に感じられるほど顕著な属性を持つ、カテゴリーXの代表例であると、話者が認めるもの

XというX@:カテゴリーXに分類することができる、典型的な成員から周辺的な成員までを含む、すべてのもの

XというXA:過去に同様の体験が複数回成就しなかったことを前提として、Xにおいては、必ず〜する(ただし、Xは時間に関する直示表現)

XまたX:話者が連続的に経験する、多数のX

【主な参考文献】

Fillmore, C.J., Kay, P. and O'Connor, M.C. (1988) Regularity and idiomaticity in grammatical constructions: the case of let alone, Language64, pp.501-538.

Goldberg, A. (1995) Constructions: A Construction Grammar Approach to Argument Structure, Chicago:University of Chicago Press. (河上誓作・早瀬尚子・谷口一美・堀田優子訳 (2001) 『構文文法論』、研究社)

グループ・ジャマシイ(1998)『教師と学習者のための日本語文型辞典』、くろしお出版

Kay, P. and Fillmore, C.J. (1999) Grammatical construction and linguistic generalizations: the Whats X doing Y?  construction, Language 75(1), pp.1-33.

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益岡隆志・田窪行則(1992)『基礎日本語文法−改訂版−』、くろしお出版

Michaelis, L.A. and Lambrecht, K. (1996) Toward a construction-based theory of language function: the case of nominal extraposition, language72(2), pp.215-247.

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森田良行(1989a)『日本語表現文型』、アルク

森田良行(1989b)『基礎日本語辞典』、角川書店

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山梨正明(1995)『認知文法論』、ひつじ書房



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