第104回 鷲見幸美(2006) 語彙的複合動詞「ミトオス」の意味分析<要旨>

 
  本発表は、語彙的複合動詞の一つである「ミトオス」を取り上げ、意味分析を行う。
 意味分析は、3つの観点から行う。第一に、「ミトオス」が多義語であることに注目し、その意味のネットワークを明らかにする。第二に、「ミトオス」が「ミヌク」と類義関係にあることに注目し、両者の共通点・相違点を明らかにする。第三に、「ミトオス」が視覚動詞「ミル」と使役移動動詞「トオス」を構成要素とする複合語であることに注目し、構成要素の意味と一語としての意味の関係について考察を加える。第三の点については、類義関係にある「ミヌク」についても、あわせて考察を行う。

 分析の結果、以下のことが導き出された。
1. 「ミトオス」の意味のネットワーク
 第一義:何かの間に物理的空間があるために視界を遮られず、向こう側まで一目で認知する。「玄関から裏庭まで見通す」「庭にある灯籠を見通す」「窓から外の景色を見通す」
 第二義:現在得られる情報を基に、現在から将来までの成り行きを判断する。「来年の価格動向を見通す」「半年後の法案成立を見通す」
 第三義:視覚的/言語的に得られる情報を基に、その背後に隠された物事を判断する。「笑顔の裏に隠された悲しみを見通す」「真実を見通す」
 第四義:複数の物事を関連させて、一つのまとまりとして認識する。「9年間を見通した授業改善」「新大陸全体を見通そうとする研究」
 第二義、第三義は、我々の認知能力及び物事の捉え方を基盤として、第一義からのメタファーによって物理的空間領域から時間的空間領域、認識空間領域へと拡張し、確立している。そして、第二義と第三義からは、「直接的に捉えられない物事を情報を基に判断する」というスキーマが抽出される。さらに、このスキーマと第一義から、「隔てられていて捉えにくい物事を捉えやすい物事から連続的に捉える。」というより高次のスキーマが抽出される。また、第四義は、第一義からメタファーとメトニミーによって拡張し、確立している。

2. 「ミトオス」と「ミヌク」の意味の共通点・相違点
 「ミトオス」の第三義は、「ミヌク」と類義関係にある。「ミヌク」は、「五感では捉えられない(捉えにくい)物事を、直感や思考によって、判断する。」と記述され、「捉えにくい物事を判断する」ことを表す点で「ミトオス」と共通している。両者の違いは、「捉えにくい物事」をどのようなものとして捉えるかという点にある。「ミトオス」は「「捉えやすい物事」とは別の、その背後に隠された存在物」として捉えているのに対し、「ミヌク」は「「捉えやすい物事」と一体化した、その内部に隠された存在物」として捉えている。

3. 構成要素「ミル」「トオス」の意味と「ミトオス」の一語としての意味
 「ミトオス」は、視覚動詞「ミル」と使役移動動詞「トオス」を構成要素とする複合動詞ではあるが、一つの動詞としてひとまとまりの概念を表している。それは、構成要素の意味の総和としての意味「視線を先に進ませて対象を認知する」(「視覚によって対象を認知する」+「視線を先に進ませる」)を表すのでなく、それを基盤としてメトニミーにより拡張した意味(「向こう側まで一目で認知する」)を表しているからである。また、「ミヌク」についても同様に、その意味が構成要素の総和ではなく、それを基盤としてメトニミーとメタファーにより拡張した意味を表すために、一つの動詞としての「ひとまとまり性」があるのだと考えられる。



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