第108回 許 永蘭(2007) 「切る」の多義分析<要旨>


 本発表では現代日本語における切断・分離を表す動詞の中で、極めて多義的な「切る」を考察対象とし、それが持つ複数の意味(別義)及びそれら複数の意味の関連性について分析を行う。本発表が従来の多義語の分析との異なる点は、別義以外に、文脈的別義及び百科事典的意味の認定も行い、それらが多義語の意味拡張に重要な役割を果たしていることを示した点である。
考察の結果、「切る」は、以下に示す7つの別義、そして文脈的別義(別義X‐X(‐X)で記す)、百科事典的意味(別義X‐○Xで記す)が認定できる。

別義1:〈人間・動物が〉〈一続きにつながっている〉〈固体に対し〉〈集中的な力を加えて〉〈力を加えた位置で〉〈分離する〉

別義1‐1:〈人間・動物が〉〈一続きにつながっている〉〈固体に対し〉〈集中的な力を加えて〉〈力を加えた位置で〉〈分離する〉

別義1‐2:〈人間・動物が〉〈複数の部分からなる〉〈一続きにつながっている〉〈固体に対し〉〈集中的な力を加えて〉〈力を加えた位置で〉〈分離することにより〉〈固体の一部分(非本体)を〉〈それ以外の部分から〉〈分離する〉

別義1‐2‐1:〈人間・動物が〉〈複数の部分からなる〉〈一続きにつながっている〉〈固体に対し〉〈集中的な力を加えて〉〈力を加えた位置で〉〈分離することにより〉〈固体の一部分(非本体)を〉〈それ以外の部分から〉〈分離して〉〈利用する〉

別義1‐2‐2:〈人間・動物が〉〈複数の部分からなる〉〈一続きにつながっている〉〈固体に対し〉〈集中的な力を加えて〉〈力を加えた位置で〉〈分離することにより〉〈固体の一部分(非本体)を〉〈それ以外の部分から〉〈分離して〉〈除去する〉

別義1‐@:〈人間が〉〈一続きにつながっている〉〈固体に対し〉〈表面に現れていない実態の一面が〉〈見えるようにする〉

別義1‐A:〈人間が〉〈人間に〉〈身体的ダメ-ジを与える〉

別義1‐B:〈人間が〉〈一続きにつながっている〉〈固体に対し〉〈固体の大きさを〉〈本来の大きさより〉〈小さくする〉

別義2:〈人間・動物が〉〈固体と液体の結合体に対し〉〈滴らせる、振る、絞る、(紙などに)吸い込ませることなどによって〉〈液体(の一部分)を〉〈固体から〉〈分離して〉〈除去する〉

別義3:〈物・人間・動物が〉〈液体・気体・複数の固体の中を〉〈抵抗に打ち勝って〉〈移動する〉

別義4:〈人間・動物が〉〈一続きにつながっている〉〈固体ではないものに対し〉〈集中的な働きを加えて〉〈働きを加えた位置で〉〈分離する〉〈または消失させる〉

別義5:〈人間が〉〈複数の部分からなる〉〈一続きにつながっている〉〈抽象的なものに対し〉〈抽象的な働きを加えて〉〈抽象的なものの一部分(非本体)を〉〈それ以外の部分から〉〈分離して〉〈除去する〉

別義6:〈人間が〉〈人間及び人間の営み(の結果として生じた物事)に対し〉〈優れた知的働きを加えて〉〈表面に現れていない実態の一面を〉〈明らかにする〉

別義6‐@:〈人間が〉〈特定の人間に〉〈精神的・社会的ダメージを与える〉

別義7:〈ある測定値が〉〈基準値より〉〈わずかに〉〈小さくなる〉
〈基準値:区切りとなる数値、あるいは意味のある数値〉

また、「切る」の7つの別義間の関連性は、以下のとおりである。
別義1 ―(メトニミー:時間的同時性)→ 別義1‐@
別義1 ―(メトニミー:時間的同時性)→ 別義1‐A
別義1 ―(メトニミー:時間的同時性)→ 別義1‐B
別義1‐1‐2 ―(メタファー)→ 別義2
別義1     ―(メタファー)→ 別義3
別義1     ―(メタファー)→ 別義4
別義1‐1‐2 ―(メタファー)→ 別義5
別義1‐@ ―(メタファー)→ 別義6
別義1‐A   ―(メタファー)→ 別義6‐@
別義1‐B   ―(メタファー)→ 別義7



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