第93回 八木健太郎(2004)連体修飾の「〜タ」における形容詞的用法について<要旨>

本研究は,(1)に見られるような,動詞のタ形連体修飾節が形容詞的に解釈される用法(「形容詞用法」)を考察対象とし、この「形容詞用法」がどのような場合において成り立つのかという問題を考察する。

1 a. この辺りには曲がった道が多い。

      b. あの人は実に変わった人だ。

      c. 電化製品は電源の切れた状態で出荷される。

 この問題を詳細に扱った先行研究の金水(1994)は、各動詞に語彙概念構造を与え、「焦点化」という概念的道具を用いることによって、例えば(2)のような連体修飾節が形容詞用法を持たないことを説明している。(判定は「形容詞用法」として)

2 a. ??太郎がゆでた卵

b. ??壁を塗ったペンキ

c. ??車から外した屋根

2a)は、連体修飾節内に外項の主語である「太郎」が現れているため、(2b)は、被修飾句が、連体修飾節の動詞の具格に立つため、(2c)は、被修飾句が連体修飾節内の離脱動詞の対象となるために、それぞれ形容詞用法を持ち得ないとの説明が与えられている。

 しかしながら、この意味役割に基づく説明では扱いきれない(3)から(5)のような例も存在する。

3 a. ウルトラマンが胸の中央につけたカラータイマー

   b. 二人の男性が女性を挟んだ並び

4 a. 悪霊を封じ込めた御札

   b. 栗色の長い髪を一つに束ねたリボン

5 a. レギュラーから外れた選手

   b. 日本人に欠けた危機管理意識

 本研究は、このタ形連体修飾節の形容詞解釈の可否に対して、より包括的な説明を与えることを目的とする。具体的には、形容詞解釈の可否に、「連体修飾節が表す事態が、状態の変化として把握されるものであること」という条件が関わっていることを明らかにするものである。

【参考文献】

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