第95回 山本幸一(2004)連結メトニミーとその認知メカニズム<要旨>

メトニミーは、従来「隣接性(contiguity)による転義」とされてきた。

  (1)  The ham sandwich is waiting for his check.      (Lakoff and Johnson (1980))

(1)は、「注文料理→客」というパターンの転義であり、"ham sandwich"は「注文料理」と隣接した「客」を意味している。同様に、「全体→部分」というパターンの転義とされてきた(2)を見てみる。

  (2)  The windmill is turning.  

   (瀬戸  (1997a)) 

(2)では、従来の研究での指摘とは違って、"windmill"が「風車」を意味し、"vanes"「羽根」を意味しているわけではないと本発表では考える。なぜなら、次に見るように、代名詞の照応関係において、(1)とは違った振る舞いをするからである。  

  (3)(=(1))  The ham sandwich is waiting for his check.

                       {*It is very delicious. /  He is very tall. }

       (4)(=(2))  The windmill is turning.    

                       {  It is made in Holland. / *They have been painted. } 

(3)(4)に見るように、(1)では「意図された意味」、(2)では「文字通りの意味」と照応している。(2)のタイプのメトニミーの存在を指摘して、分析した研究として、Nunberg(1995)が挙げられる。Nunberg は、代名詞の照応に加えて次の言語現象を挙げている。

数の一致  

     (5)    I am parked out back.      「運転手(単数)→自動車(複数)の場合」

     (6)  *We are parked out back.  「運転手(単数)→自動車(複数)の場合」

 (5)(6)は、(1)のタイプの(7)の「注文(複数)→客(単数)の場合」と対比される。

      (7)    That (*those) french fries is (*are) getting impatient.

ターゲットを主語とした叙述の後続の可能性

    (8)    I am parked out back and have been waiting for 15 minutes.

     (9)  *I am parked out back and may not start.

((5)-(9) Nunberg (1995))

 本発表では、従来、同列に扱われているメトニミーの諸パターンを整理し、(2)のタイプを取り出して「連結メトニミー」と呼び、「対象の拡張」という認知メカニズムを取り入れて特徴を明らかにする。また、(1)のタイプを「特徴づけメトニミー」と呼ぶことにする。本発表の提案する2つのタイプのメトニミーの特徴と定義、その転義のパターンは次の通りである。

A     2つのタイプの特徴

       (a)    特徴づけメトニミー

     典型例は、「部分→全体」

        例: (10) I've got a new set of wheels.          ((Lakoff and Johnson(1980))

    「新しい自動車を手に入れた」

          項のレベル(対象の認知過程)ソース→ターゲット (wheelscar

      項のレベルの意味は二重構造(ソースが地、ターゲットが図である。)

      働く認知メカニズム=「参照点能力」

       文のレベル(指示対象=述語と関わる対象)ターゲット (car) 

        文のレベル=意味の単層構造

       (b)    連結メトニミー

        典型例は、「全体→部分」

    例: (11) The windmill is turning. (瀬戸(1997a))

               「風車は回っている」

      文のレベル(指示対象)       ソース       (windmill

                              ↓         

           (述語と関わる対象) ターゲット        vanes)

         文のレベル=意味の二重構造(ソースが図、ターゲットが地である。)

       働く認知メカニズム=「A-Pの不一致」と「対象の拡張」

「対象の拡張」について

     「ある対象」が、「別の対象」を取り込んで、「機能的まとまり」と捉えられることを「対象の拡張」と呼ぶことにする。「意味の二重構造」が生じる場合は、連結メトニミーが成立する。

      (12)  The kettle is boiling.                   

                    (瀬戸 (1997a))

      (13)  Floyd broke the glass.            

                (Langacker (1991))

(12)(13)では、「容器と内容物」「主体と道具」が、「対象の拡張」という認知メカニズムによって、「総体」として認知され、「機能的まとまり」として捉えられており、述語との関わりでは、その総体の一部がアクティブゾーンとなっているため、連結メトニミーが成立している。

特徴づけメトニミーのソースとターゲットの二重構造が、「対象の認知過程」において動機づけられるのに対して、連結メトニミーのソースとターゲットの二重構造は、「対象と述語との関わり」において動機づけられる。

B  メトニミーの定義

 籾山(2001) のメトニミーの定義を援用し、次のように両タイプのメトニミーを定義する。 

メトニミー(metonymy

 二つの事物の外界における隣接性、あるいは二つの事物・概念の思考内、概念上の関連性に基づいて、一方の事物・概念を表す形式を用いて、他方の事物・概念を表す認知能力。

特徴づけメトニミーと、連結メトニミーに大別される。 

特徴づけメトニミー (characterizing metonymy)

 「参照点能力」によって、一方の事物・概念を表す形式を用いて、他方の事物・概念を表す認知能力。

連結メトニミー (linking metonymy)

 「アクティブゾーンとプロファイルの不一致」が原因で、一方の事物・概念を表す形式を用いて、他方の事物・概念(述語と関わる対象)をも表す認知能力。 

C  連結メトニミーのパターン 

     パターン                         例

    (A)   全体→部分    (組織→一員)           風車→羽根

    (B)   容器→内容物 (場所→存在物)        やかん→お湯

    (C)   主体→道具    (支配者→被支配者)     大統領→パイロット

    (D)   主体→付属物 (主体→生産物)         トランペット→音

【主要参考文献】

Lakoff, G. and M. Johnson (1980) Metaphors We Live By. Chicago: University of Chicago Press.(渡部昇一他(訳)『レトリックと人生』大修館書店)

Langacker, R. W. (1987) Foundations of Cognitive Grammar vol.1: Theoretical Prerequisites. Stanford: Stanford UniversityPress.

Langacker, R. W. (1990) Concept, Image, and Symbol: The Cognitive Basis of Grammar. Berlin: Mouton de Gruyter

Langacker, R. W. (1991) Foundations of Cognitive Grammar. vol.2: Descriptive Application. Stanford: Stanford University Press.

Langacker, R. W. (1993) "Reference-Point Constructions." Cognitive Linguistics 4:1-38.

Nunberg, G. (1995) "Transfers of Meaning." Journal of Semantics 12: 109-132.

Seto, K. (1999) "Distinguishing Metonymy from Synecdoche", in Panther, K-U. and G. Radden(eds.) Metonymy in Language and Thought, 91-120. Amsterdam: John Benjamins.

深谷昌弘・田中茂範. (1996) 『コトバの<意味づけ論>ー日常生活の生の営みー』 紀伊國屋書店.

籾山洋介. (1998) 「換喩(メトニミー)と提喩(シネクドキー)-諸説の整理・検討-」『名古屋大学日本語・日本文化論集』6:59-81. 名古屋大学留学生センター.

籾山洋介. (2001) 「多義語の複数の意味を統括するモデルと比喩」『認知言語学論考』No.1. 29-58.ひつじ書房.

籾山洋介. (2002) 『認知意味論のしくみ』研究社.

西村義樹. (2002)「換喩と文法現象」『認知言語学1:事象構造』285-311. 東京大学出版会.

佐藤信夫. (1978 [=1992])『レトリック感覚』講談社.

杉本孝司. (2002)「なぞなぞの舞台裏 その理解の認知能力」『認知言語学2:カテゴリー化』59-78.東京大学出版会.

瀬戸賢一. (1986)『レトリックの宇宙』海鳴社.

瀬戸賢一. (1997a)『認識のレトリック』海鳴社.

瀬戸賢一. (1997b)「意味のレトリック」『文化と発想とレトリック』93-177. 研究社.



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