第98回 山本幸一(2005) メトニミーの定義について<要旨>

 メトニミー(metonymy)は、佐藤 (1978)、瀬戸(1997)によれば、概ね「あるものAを、別のものBの名前で表す比喩」として「隣接性(contiguity)による比喩」と捉えられている。他方、Groupμ(1970)Lakoff and Turner (1989)Croft(1993)Ungerer and Schmid(1996)の分析では、使っている用語は違っているものの、概ね、メトニミーを「同一の概念領域内での意味転移」と定義している。本発表では、これらの先行研究が代表するメトニミー分析には問題があると考え、3つの問題点を取り上げ、その解決を探る。以下に、3つの問題点の概略を示す。

1、定義の「隣接性」という概念は、「外界の空間的隣接」と「概念における隣接」にわたる曖昧な概念であり、正しくメトニミーを捉えていない。

 例えば、(1)は外界の空間的隣接でありながら、通常はメトニミーが成立しない。この非成立について、「隣接性」による定義では説明できない。

        (1) *次郎を見てごらん。[太郎に次郎が隣接している場合、太郎を指し示して]

2、「同一の概念領域内での意味転移」がメトニミー、「異なる概念領域間での意味転移」がメタファーであるという説明にも拘らず、実際には、必ずしも「概念領域」の異同によって、両者を区別することができない。

 例えば、 (2)では、「シンデレラ」と「女の子」が「異なる概念領域」にあり、(3)では、「きつね」と「犬」が「同一の概念領域」にあるにも拘らず、メトニミーとメタファーの両方の解釈が可能である。

  (2)(a) ほら、シンデレラだ。 「劇でシンデレラを演じる女の子」  (メトニミー)

      (b) ほら、シンデレラだ。 「物語のシンデレラのように虐げられている女の子」(メタファー)

  (3)(a)きつねが吠えている。 「きつねを追い払う役目の犬」  (メトニミー)

       (b)きつねが吠えている。 「きつねに似た犬」(メタファー)

 また、(4)の「よい頭脳」の意味転移に、「よい頭脳」→「高い知力」→「高い知力の所有者」というつながりがあるように、メトニミーの意味転移に関与するのは「1つの概念領域」に限られない。

  (4)その研究所にはよい頭脳が集まっている。

3、定義が、メトニミー成立の必要十分条件を捉えていない。

 (5)の「新聞」も「本」も同じ出版物であり、(6)の「メガネ」も「靴下」も同じ着用物であり、「隣接性」で結ばれ、「同一の概念領域内」にあるにも拘らず、メトニミーの成立に違いがある。

 (5)(a)  その新聞は経営方針を変えた。

 (5)(b)*その本は経営方針を変えた。

((5)(a)(b) 田窪 (1992))

    (6)(a) そこのメガネこちらに来なさい。

 (6)(b)?そこの靴下こちらに来なさい。

 以上の問題点を解決するため、「関連性」として説明している籾山(2001)のメトニミーの定義を基に、本発表では、メトニミーを次のように定義する。

 外界の二つの事物間、あるいは二つの概念間に「関連性」が捉えられる場合、一方の事物・概念を表す形式を用いて、他方の事物・概念を表す認知能力をメトニミーと言う。ただし、その場合、一方の事物・概念が、他方の事物・概念を、他の事物・概念と区別する「顕著な特徴」として捉えられる必要がある。

 この定義によって、上記の3つの問題点が次のように解決できることを論じたい。

1、「外界の二つの事物間、あるいは二つの概念間の関連性」と定義することにより、外界と概念にわたる「隣接性」という曖昧な概念を定義から取り除くことができる。また、メトニミーを可能にする「外界の二つの事物間」の空間的関連性は、「包含」、「接触」に限られることを論じる。

2、メトニミーを「関連性」とすることにより、「類似性」によるメタファーと区別できるため、「概念領域」の異同による説明は不要となる。

3、「顕著な特徴として捉えられる必要がある」という条件を明記することにより、「隣接性」や「同一の概念領域」では説明できない、メトニミーの成立条件が説明できる。

【参考文献】

Croft, William. (1993) "The Role of Domains in the Interpretation of Metaphors and Metonymies", Cognitive Linguistics 4: 335-370.

Goossens, Louis. (1990) "Metaphotonymy: The Interaction of Metaphor and Metonymy in Expressions for Linguistic Action", Cognitive Linguistics 1: 323-340.

Groupμ. (1981 [1970]) General Rhetoric, translated by Burrell, Paul B. and Edgar M. Slotkin: The Johns Hopkins University Press. (佐々木健一・樋口桂子(訳)(1981)『一般修辞学』大修館書店.

Lakoff, George and Mark Johnson. (1980) Metaphors We Live By, Chicago: University of Chicago Press.(渡部昇一他(訳)(1986)『レトリックと人生』大修館書店.

Lakoff, George and Mark Turner. (1989) More than Cool Reason: A Field Guide to Poetic Metaphor, Chicago: University of Chicago Press.(大堀俊夫(訳)(1994)『詩と認知』紀伊國屋書店.

Langacker, Ronald W. (1987) Foundations of Cognitive Grammar vol.1: Theoretical Prerequisites, Stanford, California: Stanford University Press.

Langacker, Ronald W. (1991) Foundations of Cognitive Grammar vol.2: Descriptive Application, Stanford, California: Stanford University Press.

Nunberg, Geoffrey. (1995) "Transfers of Meaning", Journal of Semantics 12: 109-132.

Taylor, John R. (1989) Linguistic Categorization: Prototypes in Linguistic Theory, Oxford: Clarendon Press.(辻幸夫(訳)(1996)『認知言語学のための14章』紀伊國書店.

Ullmann, Stephen (1962) Semantics. An Introduction to the Science of Meaning, Oxford: Basil Blackwell.(池上嘉彦(訳)(1969)『言語と意味』大修館書店.

Ungerer, Friedrich and Hans-Jorg Schmid (1996) An Introduction to Cognitive Linguistics, London and New York: Longman. (池上嘉彦他(訳)(1998)『認知言語学入門』大修館書店.

籾山洋介. (1997) 「慣用句の体系的分類-隠喩・換喩・提喩に基づく慣用的意味の成立を中心に- 『名古屋大学国語国文学』80: 29-43 名古屋大学国語国文学会

籾山洋介. (1998) 「換喩(メトニミー)と提喩(シネクドキー)-諸説の整理・検討-」『名古屋大学日本語・日本文化論集』6:59-81. 名古屋大学留学生センター.

籾山洋介. (2001) 「多義語の複数の意味を統括するモデルと比喩」山梨・辻・西村・坪井編『認知言語学論考』 No.1. 29-58. ひつじ書房.

籾山洋介. (2002) 『認知意味論のしくみ』研究社.

辻幸夫. (2002) 『認知言語学キーワード事典』研究社.

佐藤信夫. (1978 [=1992])『レトリック感覚』講談社.

瀬戸賢一. (1997)「意味のレトリック」巻下吉夫・瀬戸賢一『文化と発想とレトリック』研究社.

田窪行則. (1992)「かつどんが食い逃げをした」『言語』6. 大修館書店.



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